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国道16号線−典型的な日本の郊外として知られるこの道路の沿線は、80年代後半から、社会を震撼させる事件が頻発し続ける、犯罪多発地域でもある。その理由は何か、国道16号とはどのような道路なのか。ネット心中や若者のメンタリティを数多く取材するルポライターが、豊富なフィールドワークで沿線住民の心象風景や消費行動をもとに、その実態を明らかにする。
1本の道路から、日本社会が抱える闇が見えてくる−−。
(配信 情報センター出版局)
「出会い系」殺人もR16から始まった
○注目される「Web日記」と事件の関連

「カードの盗難に気がつく。被害額120万円。彼女もグルだった。信じていたのに…」
 R16沿線の埼玉県越谷市にある、県立越谷総合技術高校の教諭(享年37)が自身のホ−ムペ−ジの日記にこう書いたのは、失踪直前の01年7月13日だった。
 高校はR16から、交差する国道四号線沿いに南下した場所にある。近くは農村の風景が広がるが、JR武蔵野線と東武伊勢崎線が交差する地域でもあり、人口が徐々に増えつつある。再開発が進み、「新住民」と「旧住民」とが入り乱れ、匿名の街になりつつある。
 そんななか、教諭は、出会い系サイトで知り合った女性との金銭トラブルなどを発端に、暴力団関係者に一時監禁された上、殺された。その後、11月になって静岡県内の山林で白骨遺体となって発見された。
 判決等によると、教諭は、出会い系サイトで知り合った元風俗嬢の少女2人と交際。交通事故等を装っていた彼女らにお金を貸したが、返済でトラブルが起きた。
 その少女2人は同じ風俗店で働いていた元同僚同志で、一緒に暮らしていたこともあった。また少女たちは働いていた店のオ−ナ−に借金があり、他の逮捕者も新しい風俗店の出店などでお金に困っていた、という。
 また、暴力団関係者(31)らが「俺もあの女が金を返さなくて困っている」と教諭を電話で呼びだし、ホテルに監禁、銀行口座から現金約200万円を引き出させた。美人局である。その金は、新しい風俗店の開設にあてようとしていた。
 解放後、仲間4人で飲食していた女性の1人が、教諭が警察に通報しているか電話で探りを入れ、前出の暴力団関係者が「あいつは殺さないと(自分がどういう立場にいるか)分からない」等と話していたことが分かった。
 ちなみに、この事件では、教諭自身がWeb日記で事件に関連する事柄を記述しているが、その後、ネットに関連した事件等で、事件当事者のWeb日記やblogが話題になったりする。
 たとえば、大阪府河内長野市で起きた家族殺傷事件(2003年11月)や長崎県佐世保市での小六女児同級生殺害事件(2004年6月)、河内長野市で起きた自殺系サイト連続殺人事件(2005年8月)などだ。その意味でも、「事件と事件当事者によるネット上の書き込み」、という関係性も標準化されていくのだ。
 7月10日に危機が訪れる。本人のWeb日記には次のように書かれている。

 「■盗難
  無事帰還(——;)
  カード類 通帳 全て 印鑑 ノートパソコン デジタルビデオ
  電子手帳 現金等 いろいろ 盗られた。
  被害額300万以上。。。」

 その6日後の7月16日未明、電話で教諭が東京・池袋に呼び出され、再度ホテルに監禁される。教諭は両手足に手錠をはめられ、静岡県森町の残土置き場に連れ出され、サバイバルナイフで何度も刺された。そして日本刀を持った無職の男(24)によって背中を何回も刺されて殺害された。

 教諭はハンドルネ−ムで「イッシー」を名乗り、「アッコの部屋」というHPを開設していた。そのネーミングの由来はアニメの「秘密のアッコちゃん」からで、「(アッコちゃんは)コンパクトで変身できる」「パソコンに向かっているときは、仕事や現実のことを忘れて、楽しく会話したい」「パソコン通信を始めたときに、つけたハンドル名がアッコでした」と説明していた。そして、そのサイトを通じてメル友やPHS友達、ポストペット仲間を探したり、プリクラ交換の募集もしていた。
 教諭の部屋にはPCが20台あったという。高校では「情報技術」を担当し、コンピュータを専門に指導し、夜中までネットに頻繁に接続していた姿が目に浮かぶ。
 そこに交際した女性たちが目の前に現れ、女性と付き合える喜びから感情移入は増していった。
 さらに彼女たちは自殺願望や交通事故を装った。自分に「弱み」を見せる異性には、援助者としての立場が強い人は、さらに感情移入をしてしまう傾向がある。相談を含めた親密なやりとりを繰り返して行くうちに、教諭は、彼女たちとの心理的距離を縮めていったのだろう。
 同校に新採用以来13年間勤務していた教諭。住んでいたのは教員住宅。辺りは新しい一戸建て住宅や団地、マンションが立ち並び再開発が進みつつも、空き地も残り、のどかな風景だ。周囲からは浮いているようにみえる古めかしい教員住宅内でパソコンに囲まれていた教諭。現実の生活や風景の浮遊感覚からネット志向が過剰になったのか、メール交換をしている自分のキャラクターが、現実の自分よりも快適になっていく。
 しかし、日記ではお金がなくなって行く教諭の姿が見て取れる。また、徐々に彼女たちを信用できなくなっていく。
 7月1日には「■人間不信」とのタイトルで本文は書いていない。また、直前の日記には、トラブルに巻き込まれた様子が、簡単ではあるが記されている。

 「7月12日 ■あれも無い
 (←_→)ダイヤモンドも時計もない。
 ノートパソコン壊れてる。パスワード書いたノートも無い。
 (—_—メ;)テメ…」

 翌日の7月15日は最後の日記となった。それは「■実家に帰った」とのタイトルだった。その後、石田教諭は、二度と実家どころか、自宅の教員住宅にも帰れなくなった。
by webmag-a | 2006-09-23 13:54 | 「出会い系」殺人-2