国道16号線−典型的な日本の郊外として知られるこの道路の沿線は、80年代後半から、社会を震撼させる事件が頻発し続ける、犯罪多発地域でもある。その理由は何か、国道16号とはどのような道路なのか。ネット心中や若者のメンタリティを数多く取材するルポライターが、豊富なフィールドワークで沿線住民の心象風景や消費行動をもとに、その実態を明らかにする。
1本の道路から、日本社会が抱える闇が見えてくる−−。
(配信 情報センター出版局)
桶川ストーカー殺人事件-後編
○身内の行為が犯罪となる

 こうした「ストーカー」による犯罪は、上尾署の署員も発言していることだが、これまでは「民事」扱いされることが多かった。しかも、桶川の事件では、「恋人」であり、「内輪もめ」として見られてしまうことも少なくない。
 「人が身内に対してする行為」を「犯罪」扱いするというのは、日本では、なかなか難しかった。「民事不介入」の原則もあるが、たとえば、「法は家庭に入らず」という言葉があるように、家庭などの「身内」の行為は、法によって解決するべきではないといった考え方が根付いていたためであろう。
 しかし、この桶川の事件で見られたものは、「身内」の行為であっても、犯罪扱いしなければ、命を救えない現実があるということだった。当初は、警察の「ずさんな捜査」として注目されたが、法の不備として捉えられるようになり、2000年5月、ストーカー行為等の規制に関する法律(ストーカー規制法)が成立した。

 この法律では、「つきまとい等」を、「特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的」で、「特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し」て、
(1)つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、見張りをし、又は住居等に押し掛けること。
(2)行動を監視していると告げたり、監視を知り得る状態に置くこと。
(3)面会、交際等を強要すること。
(4)乱暴な言動をすること。
(5)無言電話やいたずら電話、ファックスなどをする行為。
(6)汚物や動物の死体等を送る行為。
(7)名誉毀損。
 (8)性的な羞恥心を害する行為を告げたり、文書や図画を送付したりすること。
 などをさす。
 さらに、これらのことを反復する場合を「ストーカー行為」とした。そして、「つきまとい等」があった場合は警告、警告を無視した場合は禁止命令。これらを無視したり、ストーカー行為をした場合は「罪」として、懲役または罰金刑になるように、法整備された。
 「身内」の行為が罪になることがあることが、世間に知られるようになる。これが整備されたのは、R16的犯罪だった桶川ストーカー事件の影響が大きい。
 警察庁によると、規制法が成立した翌年のストーカー事案に関する認知件数は、2000年に2280件だったが、01年には14662件と急増。02年には12024件、03年には11923件、04年には13403件、05年には12220件で、ここ最近は1万件を超えており、警察に相談する人たちが増えたのだ(こうした数値を「治安の悪化」だとして主張する向きもあるが、「ストーカー」という存在が知られるようになり、相談や認知の数が増えただけではないかと、私は思っている)。
 しかし、「身内」の行為が「罪」になるのは、「つきまとい」や「ストーカー」だけではない。親の子に対する「犯罪」である「児童虐待」を防止する「児童虐待防止法」が2000年11月に成立。まだまだ不十分ながらも、過度な「しつけ」や虐待が規制されつつある。最近では、警察と児童相談所の連携強化も言われ始めている。
 また、夫婦間の暴力であるドメスティックバイオレンス(DV)を防止する「DV防止法」が2001年10月に成立した。これまでは、夫婦間の暴力は、暴行罪になりにくく、また夫婦間の調整や被害者の保護も視野に入ってきている。DV防止法は女性の保護が優先されていたが、男性被害者も考慮、現在では、被害者は男女問わず対象にしている。

 これらはすべて、「これまでは法ではなく、本来「共同体」自身が持っていた自浄能力で解決を導き出していたものだった。たしかに、郊外的な空間では「出会い系サイト」を含む匿名の他者との出会いの場もあるが、それを避けた場合には、ストレスのはけ口の緩衝地帯を見つけられないと、はけ口としての「暴力性」が一挙に「身内」に向けられ、近所という「監視」も見えなくなりがちだ。
 こうしてR16的な風景は「身内」を犯罪の加害者・被害者として成り立たせてしまう要因がある。そのため「身内」の犯罪を法律で位置づけることでしか、共同体が機能しなくなってきている。

○「R16」の濃度

 ただ、今回、桶川市から上尾市、さいたま市というルートで取材してみたが、「R16」の濃度というものを意識した。そもそも、R16沿線の西側は時計回り的な順序で開発が進んで来た。その意味では、この地域は開発が最も遅れたR16なのだ。
 桶川駅前は、東武ストア「マイン」があるものの、のどかな田舎の風景なのだ。消費者金融も独立店舗はなく、コンビニのATMが窓口になっているくらいだ。一方、駅の西側にはR17が走っている。その沿線は、R16に近づくにつれて、郊外型店舗(たとえば、大型古本屋やリフォーム会社、ショッピングストア、カーショップなど)などが目につくようになる。

 R16的な地域として、濃度が「薄い」桶川市。そこに住んでいる人たちとっては、濃度が「濃い」さいたま市が日常の遊びの拠点のひとつになる。大宮駅西口には、ダイエーと丸井が一体となっているショッピングビルがあり、消費欲求を駆り立てている。
 現在のR16はバイパスとなっているために、大宮駅北側には旧R16が走っている。旧R16はのどかな風景ではあるが、そこにある古本屋には、コンビニでしか販売されていないコミックスが大量に並んでいた。こうした品揃えを私は見たことがなかった。R16的な消費生活はこうしたところにも波及していると実感する光景だった。

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by webmag-a | 2006-11-11 17:50 | 桶川ストーカー-後編