国道16号線−典型的な日本の郊外として知られるこの道路の沿線は、80年代後半から、社会を震撼させる事件が頻発し続ける、犯罪多発地域でもある。その理由は何か、国道16号とはどのような道路なのか。ネット心中や若者のメンタリティを数多く取材するルポライターが、豊富なフィールドワークで沿線住民の心象風景や消費行動をもとに、その実態を明らかにする。
1本の道路から、日本社会が抱える闇が見えてくる−−。
(配信 情報センター出版局)
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「出会い系」殺人もR16から広がった
 インターネットで知り合った見知らぬ相手と集団自殺する「ネット心中」は、R16から始まり、全国に広がった、と先に述べた。一方で、インターネットを通じて、殺人事件に発展するケースもいくつか見られる。ネット恋愛(ウェブ恋愛)やメル友などの間のトラブルによる殺人もある。実は、そうした事件はR16から始まり、標準化されていたのだ。今回は、4回に渡り、「出会い系殺人」の始まり、そして標準化への経緯をレポートしていく。

○はじまりは岩槻市ケース
 「出会い系殺人」において、特に2001年は象徴的な年であった。
 「好きだと言ってくれていたのに、『夫とは別れない』といわれた。どうすればいいか分からなくなり、憎く思えてきて刺してしまった」
 2001年1月、栃木県宇都宮市の私立高校の男子生徒(当時18)が、R16の埼玉県岩槻市(現・さいたま市)の主婦A(当時32)を包丁で刺し、重傷を負わせた。その後、「岩槻市で女性を刺した」と、JR宇都宮駅前交番に自首してきた。
 2人の出会いは、個人運営の出会い系サイト「なかよしチャット」で、ネット上のやりとりを経て恋愛関係となる、いわゆる「ネット恋愛」(ウェブ恋愛)だった。事件は当初、別れ話のもつれによるものだと思われた。
 報道等によると、男子生徒は2001年1月15日午後3時頃、宇都宮から電車とタクシーで、岩槻市内の主婦A宅を訪れた。
 旧岩槻市は「人形の街」として、古くから知られて来た。駅前はそうした人形店と同時に、ショッピングセンターが立ち並ぶ。近くには国道16号が走っており、R16的な郊外を作り出している。主婦A宅はその駅前から車まで5分ほどの、綾瀬川のほとりに位置している。そこは、高層マンションを望むアパートや一戸建ての多い区画となっている。昼間はほとんど人通りがなく、夕方になると犬の散歩をする人が目立つ場所だ。
 その主婦A宅内で、主婦の腰と首の3ヶ所を台所にあった包丁で刺し、全治3週間の怪我を負わせた。
 「死んでしまったのではないかと心配になった」という男子生徒は同日午後8時ごろ、交番に自首。16日になって、男子生徒は逮捕された。
 しかし、家裁の審判のとき、逮捕時の供述をひっくり返した。実は、主婦Aに殺害を依頼されたのだ、と主張。審判では、嘱託殺人未遂と認定されたのだ。
 主婦A本人に殺害を依頼されるということはどういうことなのか。
 主婦Aは夫(当時・34)との結婚1年後に、実母がガンになった。実母の看病のために、都内の病院に毎日のように通っていた。しかし、その過労からか、主婦Aはくも膜下出血で倒れて、入院。一年後に退院し、リハビリを重ねていた。
 そんな不安を抱いていた時に、隣近所には相談できる相手がいなかった。子どももおらず、アパート住まい。そしてリハビリ期間中とあれば、家を出ることも容易ではない。自然と、話を聞いてくれるかもしれない「匿名の他者」を求めて、インターネットにそのコミュニケーション欲求を向けるのも無理はない。そして、ネット・サーフィンを繰り返しているうちに、「なかよしチャット」を見つけ、2000年11月頃、男子生徒と知り合ったのだ。
 しかし、男子生徒とのネット恋愛が順調にいったかのように見えても、リハビリのストレスは解消されていなかったのか、自殺願望を打ち明けるようになっていたという。このときの2人の会話はどのようなものだったのかは明らかにされていない。
 2001年1月15日、男子生徒と主婦Aは初めて会うことになった。オンラインで出会って、2ヶ月後のことだった。早朝、2人はチャットをしていて、主婦Aは、
 「今日、死ぬつもりです」
 と書き込んで来た。それを見た男子生徒はどう思っただろうか。ネット恋愛に発展していたということは、主婦Aの自殺を止めるつもりになったのではないか。
そのため、大学入試センター試験を5日後に控えていたものの、高校に「風邪で休む」といって、岩槻市に向かったのだ。
 このときの男子生徒の気持ちを、付添人の弁護士は、
 「主婦の自殺を止めるつもりだった。主婦が本当のことを供述してくれなかったことについて『悲しかった』とショックを受けている」
 と話していた。実は、死にたいと話していた主婦Aは男子高校生に殺害を依頼していた。そして、「あなたがやらなくても、プロに頼む」と言われ、男子高校生が刺したのだ。
 ちなみに、男子生徒の逮捕後、被害者の夫は、主婦Aの自殺願望を否定していた。しかし、パソコンの通信履歴から、男子生徒の主張を採用。中等少年院送致を決定した。
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by webmag-a | 2006-09-23 13:40 | 「出会い系」殺人-1